「この壁を壊したらいくら?」に即答。
手を動かして得た知識で、新たなスタートを応援したい。

田実省二郎

  • 2002年 大学卒業後、大手不動産会社に入社。建築営業、投資仲介、売買仲介などを担当。
  • 2015年 田実宅建士事務所を設立して独立。売買・賃貸仲介のかたわら、リノベーションを学ぶため大工として現場に立つ。

独立のきっかけは?

ずっと考えてきた、正しい方法を実践したかった。

13年間の不動産会社勤務を経て独立してから、もうすぐ1年半。主に不動産を買いたい・借りたい方の仲介をしています。住宅やインテリアには学生時代から興味があり、また将来的には独立して仕事をしたいと思っていました。DIYが得意で何でも自分でやってしまう自営業だった父の影響かもしれません。

知識やノウハウを生かしてエンドユーザーの役に立つ。それが「正しい」「まともな」不動産業だと私はずっと考えてきました。しかし、会社組織の中での行動軸は方針がベースであり、自分のやり方の理想とそれとに乖離が強くなっていることを経験を積むごと感じていました。数字のことを考えれば、住まいをじっくり吟味して決めたい方に付き合うよりも、手っ取り早くビル1棟の売却を受任しようとなりがちです。

これが組織ではなく自分1人なら誰にも遠慮しないで、正しいと信じるやり方を貫くことができます。不動産業界では残念なことに、問い合わせを受けた物件が自社経由で紹介できない場合に見込み客を逃すまいとその事実を伏せるケースや、自社へ余分に報酬を払う売主・貸主の物件ばかりを買い手・借り手に勧めるケースが後を絶ちません。開業にあたって、私はこういったことを一切しないと宣言し、事務所のウェブサイトにも掲げました。正しさだけで成り立つかどうかは半分賭けでしたが、今のところは紹介が続いていて、まずまず順調。「理想の物件を探し求めて早1年」という方もいますが、成約を焦らなくても十分仕事が回っています。

仕事のモットー

入念にリスクを排除。「何でも屋」だった応用力を生かす。

会社員時代の私が最初に配属されたのは、農地のオーナーにアパート経営を提案する建築営業で、毎日50~60件の飛び込みをしていました。真夏に冷たい飲み物を下げていくような泥くさい営業を続け、訪問先ではけっこう気に入られました(笑)。ただ、こうした土地活用案件は会社の総合力が背景にあってこそ注文してもらえたと感じてしまい、「田実にお願いされた」という実感があまりできませんでした。数年でそれが物足りなくなって転属希望を出し、賃貸仲介や住宅、投資用物件の売買仲介などに携わるようになりました。

そこからは店舗勤務が長く、独立直前は江東区の東陽町店で店長をしていました。スタッフをまとめるかたわら、住宅購入しに来られた方をご案内し、銀行などとも絶えず情報交換。近隣を回って売却依頼募集のポスティングや訪問営業もするという「何でも屋」でしたが、おかげで応用力がつきました。建築営業や用地仕入れの経験で銀行とのやりとりが多かったので住宅ローン以外の融資にも詳しくなり、「よそで仲介を断られた」という店主の方が来店者用駐車場の購入資金を調達するお手伝いをしたこともあります。建物よりもハードルが高い駐車場用地への融資は、通すコツがあるんですよ。

いま、仕事全般で特に気をつけているのは「取引の安全確保」です。せっかく買った土地で予期せぬ出費がかかるといった事故が絶対に起こらないよう、契約前の確認を徹底して、地中埋設物の処分費用など「見えないリスク」も契約書に書き込んで可視化します。単に仲介として取引の間を取り持つだけでなく、依頼者を守る代理人になったつもりで臨んでいます。

大工もしているのはなぜ?

リノベーションを、自分の言葉で説明できるように。

手を動かすのが好きなこともあり、仲介業務の合間で週に何度か、大工の仕事を手伝っています。始めてからもうすぐ1年。腕はまだまだですが、壁の塗装やクロス貼り、床張りに天井抜きと、リノベーションの定番的な作業は一通り覚えました。ものを作り上げる楽しさや、少しずつ思い通りできるようになる気持ちよさがあり、日ごろの不動産業とはまったく別の感覚を味わっています。

中古物件のリノベーションを検討する中で出てくる疑問、例えば「部屋の壁に釘が打てるか」「いっそのこと壁を壊せるか」「費用はいくらかかるか」などは、実際の作業を体験していると、現地を一目見ただけで分かるようになります。私にとって、それが大工仕事をする最大のメリット。いくつかの施工方法ごとに、職人の日当や残材処分まで考えて費用をその場で見積もれる私のような不動産業者はほとんどいないので、当社の分かりやすい特長になっていると思います。

「ちょっとレトロな物件を購入し、できる範囲で自分たちがリノベーションしたい」とおっしゃる方が最近ずいぶん増えました。これはプロに頼むコストを抑えたいのではなく、自分たちの家に手を加えて愛着を持ちたいのが理由だと思います。年月を経た建物の味わいや、カスタマイズの楽しさは、きれいに整えられた新築物件では得られない魅力。ご希望があれば、具体的なリノベーションのアドバイスや、さらに現場でのお手伝いもさせていただきます。

これから目指すこと

ずっと「まともな仲介」であり続けたい

個人的な好みになりますが、不動産を売る側・貸す側に付いて大きなビジネスを追いかけるより、物件を買う側・借りる側に立って一人ひとりをとことんお手伝いしたいと思っています。新居を構えたり、お店や事務所をオープンしたりという人生の節目に立ち会うやりがい、大切なスタートをトラブルなく迎えてもらおうという使命感を感じるからです。これからもずっと、正しいことを貫く、まともな仲介会社であり続けたい。企業としてそれができる余裕を持つため、定期的なマンション管理業務の受託も増やしていくつもりです。

大工仕事も続けていきます。将来は仲介した物件のリノベーションを丸ごと引き受けて、各分野の職人をコーディネートする工務店的な不動産業者になりたいですね。

仕事の必須アイテム

ノートパソコン

「メールも書類作成も図面の確認も、すべてこの1台。ファクスの送受信もできます」。不動産業界では珍しいMac派。

イイタン一問一答

Q.出身は

愛知県名古屋市

Q.現在のお住まいは

世田谷区の下北沢。場所柄、美容師さんやフリーのライターさんといった異業種の人脈を作りやすいのがいいですね。

Q.好きな駅は

最近まで近隣に住んでいた神奈川県藤沢市の辻堂駅です。サーフィンをするので海が近いのは最高。湘南特有のまったりした空気も気に入っています。

Q.不動産業界に入ったきっかけ

学生時代はインテリア、店舗設計にも興味がありましたが、就職活動の当時はほとんど求人がありませんでした。「まず働いて、その中で勉強しよう」と、比較的採用の多かった不動産業界を選択。あれから十数年を経て、思い描いていたような仕事ができるようになりました。

Q.不動産業の楽しさとは

専門知識を増やすのも、手を動かすのも単純に楽しいですが、やはり依頼を受けた方から「頼んでよかった」と言われたときに、一番やりがいを感じます。。

Q.尊敬している人

前職の名古屋勤務時代に知り合った不動産コンサルタントの方です。現場に精通していて、なおかつとても実直な性格。物件の仲介ではなく、住宅完成保証や住宅診断といったサービスを事業にしている専門性にあこがれます。私も困ったときに相談する、駆け込み寺的な存在でもあります。

Q.イイタンについてどう思いますか

不動産選びを、まず担当者から決めるというコンセプトに共感します。それが実際のサービスとしてスタートしたのがうれしいし、いずれこの業界の当たり前になってほしいと思います。

編集後記

ビジネスカジュアルに身を包み、物腰もソフトな田実さんですが、話してみると確固たる信念の持ち主でした。顧客本位の業者を目指して独立し、建物を深く理解するために大工としても汗を流す。新生活を始める人、事業を興す人にとことん寄り添いたいと、自分の手足を動かしてスキルを磨き続ける田実さんが担当者なら、理想の物件を見つけた後も末永く信頼関係を築けそうです。「暮らし方、働き方まで自分らしく」。そんな思いを共有できる、心強い“同志”になってくれるでしょう。
取材/撮影 相馬大輔