ねこと暮らせる部屋を当たり前に。
貸し手を増やして、借り手を支える。

井川達也

  • 2012年 大学卒業後、人材総合サービス会社で、経営人事コンサルティングなどを担当
    2015年 Crown Cat株式会社を設立。ねこと暮らす不動産の開発・仲介などに携わる

どんな仕事を?

ペット可物件を探すお手伝いと、不動産オーナーへの改装の提案です。

ねことヒトがちょっとワクワクする賃貸物件情報サイト「東京猫不動産」を運営しています。会社を2015年の夏に設立後、現在はこうした物件の仲介だけでなく、不動産オーナーが保有する物件をねこ対応にするためのコンサルタントも行っています。進行中のものも含めると、すでに3棟のリノベーションに関わっていて、部屋の仕様や内装材の選択などをアドバイスしています。また、個人の方からのリフォーム依頼も徐々に増えてきています。

ねこが飼える賃貸物件を探している方の多くは20~40代の単身女性で、多頭飼いのケースも目立ちます。ねこの存在が、ペットというよりも家族同然のパートナーになっていて、物件探しの条件でもたいていねこの生活が第一優先。職場まで20分という東京都心近くのマンションから「ねこのためにもっと広いところを」と、通勤に1時間かかる郊外を選んで引っ越した方もいらっしゃいます。これは、広い部屋を求めて家賃相場の低いところへ移るというだけでなく、ねこOKの物件がまだまだ不足しているために選択肢が限られてしまうことも影響しています。

僕も幼いころからねこを飼っていますが、実家を離れて一人暮らしを始めたときに、ペット可の物件が少なくて本当に困った経験があります。大学卒業後にいったん就職したものの、もともと起業したい気持ちがあり、また自分自身も好きなねこに関するサービスが足りていないと感じたのがきっかけで、現在にいたります。

仕事のモットー

時には内見よりも「ねこトーク」優先。話の中で希望がまとまることも

当社で物件を探す方はねこの生活が第一なことが多いので、担当者の私が期待されているのも、まずは「同じねこ好きであること」だと思います。もちろん、ねこと暮らせて理想のお部屋探しをお手伝いするのですが、そのお話の中で、”ねこ好きあるある”の話になることも多いです。ねこのお腹に顔をうずめたくなるとか、もうそんな話までしますね笑 もちろん、ご飯は何をあげてるとか、トイレの砂は何がいいとか、ねことのライフスタイルの話もします。そういった役立つ話から、雑談まで、ねことの暮らしの話を共有できる相手を、みんな潜在的に欲しがっている気がします。

ねこはストレスがかかってしまうので、残念ながら内見にはこれません。その代わりに、飼い主の方は「ここの日差しは気に入ってくれそう」といったねこの視点で部屋を見ていることも多いですね。当然、ねこ視点での内見なので、たちまちねこトークが盛り上がります。

お客様の理想のライフスタイルの希望を叶えることも大事ですが、意外と本当にすみたいイメージが不安定な方も多いです。そのため、希望のライフスタイルから、どんな部屋でどう過ごすのか、どんどん明確化していくサポートをすることが不動産のエージェントとして大事だと思っています。

ペット可物件、まだ少なくない?

公開数時間後に問い合わせが入るレベルで拡大の兆しも

「肉球ビュー」って言葉、知っていますか? ねこが飼える物件にリノベーションするとき、壁際の高い場所を歩かせられるように足場(キャットウォーク)を取り付けるのですが、この材質を強化ガラスにすると、登ったねこのかわいい肉球が、下からはっきり透けて見えるんです。かなりフェティッシュな仕掛けですけど、評判はすごくいいですよ。

ねこ向けのリノベーションは、間取りに影響するものから小物の設置まで大小さまざまなものがあります。弊社でオススメしているのは、爪研ぎをされづらく、修繕が簡単な消臭・調湿の効果もある「シラス壁」にすること。シラス壁は天然の火山噴出物を使った内装材です。石こうボードの下地に塗るものも、既に貼ってある壁紙の上からでも施工できるものもあるので導入実績が増えています。

ねこを飼う人に部屋を貸すとなると、物件のオーナーさんは「傷やにおいをつけられるのではないか」と不安に思うのが普通です。ただ、実体験も踏まえて私がご説明すると、そこまで心配しなくてもよいと考え直していただき、むしろ「他にない特徴が出せる」と、かなり前向きにリノベーションしてくださることもあります。内装まで完成していた新築アパートの壁と床を、あえてねこ仕様に変えていただいたケースでは、ネット上に情報を出してから数時間で問い合わせが入りました。

「ねこ共生物件」といえば、何か目を引く設備をイメージしがちですが、実は特別なリノベーションをしなくても、貸し手と借り手の間にきちんとした信頼関係とルールがあれば十分成り立ちます。国内の賃貸住宅は全体として余り始めているのに、ねこと入居できる物件はまったく需要に追いついていないのが現状。オーナーと入居者の理解と歩み寄りがあれば、まだまだ増やしていけると手応えを感じています。

これから目指すこと

ねこと入居のハードル下げる仕組みをつくりたい

会社として事業を行っている以上は利益を出さなければならないのですが、僕はこの仕事を通じて、単純に「ねこと暮らすことを当たり前にしたい」と思っています。持ち家や高級賃貸だけでなく、本当に誰でもねこと暮らせる環境をつくっていきたい。貸し手と借り手の橋渡し役として、これからも物件の開発と仲介を両輪に仕事をしていくつもりです。

橋渡しのノウハウがしっかりできたら、いずれペット可物件の保証事業を始めることも視野に入れています。入居前の審査でマナーのしっかりした方を選び、万一の損傷に備えて保証金を管理する仕組みがあれば、オーナーは安心できるので対応物件を増やしていくでしょうし、それによって借り手の選択肢も豊富になります。賃貸でねこと暮らすハードルを、とことん下げていきたいですね。

仕事の必須アイテム

デジタル一眼レフカメラ

求人広告の制作経験があるため撮影が得意。室内の広い範囲が撮れるレンズをチョイス。
ペットフードのサンプル品:ノベルティーも、部屋探しの本人より飼われるねこがターゲット。

イイタン一問一答

Q.出身は

生まれは岐阜県。少年時代を石川県で過ごしました。

Q.現在のお住まいは

練馬区・石神井公園駅近くのアパートで、ねこ2匹(オスとメス)と一緒に暮らしています。

Q.好きな駅は

石川県の金沢駅です。新幹線の開業で有名になった新駅舎ではなく、旧駅舎や周辺のたたずまいが気に入っていました。

Q.不動産業界に入ったきっかけ

ねこにかかわるさまざまなビジネスを試行錯誤したのですが、日常生活と関係が深く、しかも街の景色を変えるようなモノづくりに関われる魅力を感じて、不動産に携わるようになりました。

Q.不動産業の楽しさとは

お客様の悩みを解決して喜んでもらえるところです。「ねこ」という共通の関心があるからこそ、ライフスタイルを深く理解できます。住まい探しは、ライフスタイルの重要なポイント。その重要なポイントを一緒に探せて喜んでもらえる事は大きいですね。

Q.尊敬している人

最近映画で話題の出光佐三さんなど、周囲に何を言われても軸をぶらさずに業界の変革をやり遂げた経営者にあこがれます。「ねこ」と「不動産」を結びつける僕の仕事は、それって仕事になるの?!とよく言われますが、新しいニーズに応えられる社会的意義のあるもので、大きな仕事になりえると信じています。

Q.イイタンについてどう思いますか

家選びは、自分が毎日帰る場所を探すこと。担当者を知るための仕組みづくりは、とてもよいことだと思います。会社の知名度で仲介を頼むより、信頼できる人を見つけて一緒に考えるほうがうまくいくのではないでしょうか。

編集後記

「内見中なのに、ねこのトークがいちばん盛り上がることもある」と語る井川さん。不動産という本題からやや脱線したようにみえて、住まう人の価値観をしっかり理解して共有しているのですから、実際のところは理にかなっているのでしょう。「ねこと暮らす私」の良き理解者を求めている方に、ぜひ一度会ってもらいたい担当者です。
取材/撮影 相馬大輔